『あたりまえ』     (2007.07.13 福島民報新聞「民報サロン」掲載)



南会津の素晴らしさを人に話すとき、私は自然の豊かさを第一にあげています。

私が、南会津にやってきたのは、今から7年前。結婚を機に、妻の実家である旧南郷に移り住んできました。

私が一番はじめに驚いたこと、それは、水道水のおいしさです。

今まで、水は買って飲んだり、一度沸騰させたりとしていたのですが、ここの水道水は、冷たく、味・香りとも全く感じられません。

来た当初は、余計なものは飲まず、ひたすら水道水だけを飲んでいた記憶があります。


私が住む地域の水道水は伊南川の水です。

しかし、地元の人はこの水道水を、特別美味しいとは思っておりません。他の地域では、山の清水を使っていて、もっと美味しいそうです。

私が働く酒蔵では、ひめさゆりの群生地や、多数の湿原がある登屋山の山頂付近よりお酒の仕込み水を引いております。

この水がまたすばらしく、超軟水のやわらかく、甘みのある水です。

花泉のおいしさの秘密は、この水でもある訳ですが、この水を知ってからは、確かに自分のところの水道水はそんなにでも無いなぁと、思ってしまいましたが、

ここの水は特別なもの。水道水でこれだけ美味しい水が飲めるところは、いったい他にどれだけあるのでしょうか?


私が働く酒蔵の前には、ニッコウキスゲが咲きます。その酒蔵からは、水芭蕉・ワタスゲが咲き乱れる湿原まで数分。

すぐ裏のスキー場は、ひめさゆりの群生地でもあります。

春先、近くの沢で魚釣りも出来るし、側溝にまでイワナやヤマメが泳いで来ます。近くの山では山菜が採れ、秋には、きのこも。

これがここでは当たり前の風景。


今、日本では、温暖化によって四季が無くなりつつあります。

でも、この南会津には、はっきりとした四季があります。

この当たり前の様な風景は、本当にすごい事なのです。

このことに気付いている地元の人はどれだけいるのかと、疑問に思う時もあります。


タンポポ一つ取っても、他ではほとんど見られなくなった在来種が非常に多かったり、河川には、絶滅危惧種の柳も自生したりします。

最近では、あまり見られなくなった生き物たちも、南会津には、まだ沢山います。


我が家の四歳になる息子は、今、虫取りに夢中です。

保育所から戻ってくると、ほぼ毎日、虫取り網と虫かごをもって、チョウチョやトンボ採りをはじめます。

アゲハチョウや、オニヤンマといった大物も飛んでくるので、いつしか親の方が本気になってしまう時もあります。

もちろん、毎日採るわけですから、最後は逃がしますが...。


我が家の裏には、御社と沼があり、そこの沼には、毎年、オオルリボシヤンマが旋回しています。

そして、六月、我が家の畑には、たくさんの小さなトンボが無数に飛び回ります。そのトンボはハッチョウトンボ。

体長が18mm程しかなく、休耕田や湿地があるところに生息し、生息する地域が少ない事から希少性が高いトンボです。

場所によっては、県指定の天然記念物に指定されている所もあるそうです。

私がこのトンボを知ったのは、15年ほど前。テレビの特集番組で取り上げられたのを見て知りました。

「へー、こんな小さなトンボがいるんだー。いつか見てみたいなぁ」と、そんな思いを抱いていました


その内容には、旧南郷村の宮床湿原もハッチョウトンボの生息地として取り上げられています。

その後、初めて尾瀬に行った時、偶然見つけて、ものすごく感動したのを覚えております。


あれから数年、ハッチョウトンボがあたり前の生活に身をおくことになるとは。