『はじまり』     (2007.10.24 福島民報新聞「民報サロン」掲載)


南会津の山々が色づき始め、里では、稲刈りが最盛期を迎えています。

花泉にも、今年の酒米が入荷となり、精米が始まりました。

花泉では、自家精米をしています。

今年の米の出来もまずまず。その米を約20時間かけて、65%まで削ります。

花泉で使う米の大部分は、地元南会津産で、麹米のみ喜多方の有機栽培米を使っています。

大切に育てられたお米ですので、その旨みを残す為に、ただ削れば良いというのではなく、水・米・造りのバランスを大事にして精米しています。

それが花泉の魅力である、やさしい香りと旨みに繋がっています。

お米が入ってくると、蔵の方も、仕込み準備が始まります。

仕込みタンクを洗ったり、道具を洗ったり、緊張感も高まってきます。

仕込み期間は、11月より始まり、4月末までの約6ヶ月間。

生き物が相手ですので、その間、一日も休み無く、交代で泊り込みをしながら、酒造りを行います。

南会津の冬は厳しく、一晩で、1m程積もる時もありますし、建物の中さえ氷点下を下回る朝もあります。

この様な厳しい自然環境下で、失敗の許されない真剣勝負の酒造りは行われています。

誤解の無いように付け加えておきますが、冬には冬の良さがあります。

私も良く、南会津の魅力は冬に来ないと分らないよと、つい言ってしまいますけど、

気候条件によって日々変化する白銀の世界や、晴れた日の朝の凛とした空気はその場に居ないと感じられませんし、雪のおかげで出来る楽しみ方も多々あります。

南会津での冬の生活は大変じゃない?とよく聞かれますが、確かに家の周りの除雪は大変ですが、道路などは、雪が降ればすぐ除雪車が出動しますので、

雪が降った場合は、かえって都市部より快適な道路状況だと思います。

これから徐々に気温が下がり、お酒が一段と美味しく感じられる季節です。

これから南会津では、紅葉や、キノコなどの秋の味覚の最盛期を迎えます。

花泉をぬる燗にし、裏山で採れたキノコや伊南川の鮎を肴に一杯。私の中の最高のひと時です。

ぬる燗にすると、お酒から、フワッと立ち上がる香りが華やかになり、そして、口一杯に広がる甘みと旨み。

決して料理の邪魔をせず、更には、料理を引き立ててくれます。

気が付くと飲みすぎることが多々ありますが、それはご愛嬌。

それもまた、花泉の魅力の一つかもしれません。

私はどうも吟醸香というものがあまり好きになれずにいます。

確かに美味しいのですが、それは初めの一口だけ。あとは、強い香りで、口・鼻が疲れ、さらには、料理の味・香りも分らなくなってしまいます。

たぶん、量を飲まなければ大丈夫だと思うのですが、やっぱり飲んべえなので、ダメです。

花泉に勤めて、8年。花泉を知れば知るほど深みにはまってしまっている自分。

美味しい日本酒は他にもたくさんありますが、私に合うお酒は、花泉という事なのでしょうね。

これからはじまる今年の仕込み。

杜氏を筆頭に蔵人一丸となっての今年の酒造りは、香りにこだわり、飲んで「ほっとするお酒」を目指していきます。

日々の作業を大事にして、お酒の一滴一滴に自分たちの思いを込め、自分たちが感動できるものが出来たら最高です。

新酒が出来上がるのは、来年の一月。

その出来上がりが今から非常に楽しみです。